R8,2.14 脂肪注入による再建患者をお迎えして

 

今回の参加者は自家組織完成者5名、シリコン完成者1名、エキスパンダー挿入中1名、再建思案中1名でした。

ブログで予告した通り、この日のテーマは10年かけて美しいお胸を完成させた、通称・たまちゃんの「穿通枝皮弁での同時再建、その後脂肪注入での再再建」体験談でした。盛り沢山の情報量、何よりたまちゃんの「伝えたい」という熱い誠意に打たれ、準備した時間が不足したのが残念でした。

再建ストーリーのあら筋しか載せられませんが、お許しください。たまちゃんは診断後まもなく、臀部からの穿通枝皮弁による同時再建手術を受けました。術後の安静時間では、傷よりも腰痛が辛く(腹部からの移植後は膝を45度曲げて安静にしますが、臀部の場合は足を真っすぐに伸ばしておくので、腰に負担が来るのでしょうか)。死にたい、でも死んだらお胸も死んでしまう、の心境だったそうです。

その後、定着したかに思えたお胸は、信じられない結末を迎えました。理由は医師にも分からなかったけれども、膨らみが固く縮んでしまい、とうとう血流が途絶え壊死してしまったのです。そこからたまちゃんの真のチャレンジが始まったかのようです。 

その後、たまちゃんは壊死したお胸を摘出し、脂肪注入によるゼロからの再スタートを選択しました。

まず1日に10時間、お胸に陰圧をかける「ブラバ」という体外式エキスパンダーを毎日装着することを術前後の四週間。つまり皮膚を外から引っ張り、脂肪が定着しやすい環境を作る。こう書けば簡単なようですが、そのブラバの稼働音に耐えるだけでも大変だったと思います。そして大腿部の前、後ろ、側面、腹部をドナーとして脂肪を採取し、完成までには注入が5回必要でした。3回程度の注入により十分な膨らみが出来る場合もあるそうですが、たまちゃんの場合は、3回目からようやくボリュームが付くようになったとのこと。初回から3回までの先が見えない時期には、相当な葛藤があったのではないでしょうか。

脂肪注入による再建は保険適用になっていません。標準治療のように安心して身を任せられる症例数は無かったのです。自分も同じ辛さを味わった、と慰めてくれる仲間がいたわけでもありません。「なぜ自分ばかりが?」と落ち込み、立ち直れなくなっても不思議はありません。費用の心配もあります。一回の注入に40万~70万かかります。

これは推察ですが、某再建サロンのマダムを務めるたまちゃんには、自分を実験台として、後続の患者のために一連の経験を披瀝出来るまでは、頑張ろう、という思いがあったのではないでしょうか。体感会で見せて頂いたお胸はどちらが再建か、健側か、全くわからない見事な仕上がり、ここまでに約10年かかったのか、と思うと見せてもらったひと時が宝物のような時間でした。

自身の辿った日々を、私も思い出しました。ほぼ15年前にたまちゃんと同じ形成外科医により、腹部から穿通枝皮弁による再建をしました。当時、群馬県内には再建情報が少なかったので、前橋から横浜通いでした。しかし待ちに待った再建手術の日が近づくにつれ、だんだん怖くなり、知人に弱音を吐いてしまったのです。「今さら何を言っている、自分を実験台として差し出して、乳がん患者の助けになるんだ、そう言っていただろう。今になってひるむのか?」。

結果、武者震いしてのぞんだ手術は不慮の血管トラブルにより14時間の長帳場になりました。麻酔から覚め、吐き気が治まり、人間らしい心を取り戻してからは、この経験を他の患者さんと共有しなくては、と用意しておいた録音機に手を伸ばし、現在どのように回復に向かっているかを、かすれ声で記録し始めました。

このサロンを起こして今に至るまで、多くの方の善意と応援があり、しかし一方では後ろから切られたように思う経験もあります。動きを始めれば必ず逆風が起こる、しかし動かずにいれば自分を守るだけの「子供」のままに終わるし、待ち受けているのは「孤独」です。

たまちゃんが世話役を務める都会のサロンは、前橋とは地の利が異なり、集まる人々の体験はこことは比べ物にならないほど分厚いものです。そこから幾度となく、足を運び、『シャロン』を支えてくれた患者仲間達がいました。それに触発され、12年、続けて来られたのです。 

たまちゃんのお話は、脂肪注入について予備知識の無い参加者には分からない部分もあったでしょう。でも参加者達の表情に、アタマをもみくちゃにされた爽快感を見ました。それぞれの心に光と影が作られたと思います。

こうして記録している朝、フィギュアショートで5位という意外な幕開けだったりくりゅうペアの、逆転金メダルの演技を観ることが出来ました。

自分には不可能なことをし遂げる人々の、劇的な人生を見るのがオリンピックの楽しみです。でも我々が平凡でも不遇でも、最後までどのように生きるかにそれぞれのメダルがかかっているのだと思います。

たまちゃん、本当にありがとうございます。この日のサロンにはレギュラー参加者からも貴重な報告がありましたが、次回のブログでお知らせしたいと思います。

お花屋さんの店先が急にあでやかになりました。水仙、ネモフィラ、桜草。春の植物は花びらが薄く、風に揺れます。短い季節をしっかり咲き切るよう、お水をたっぷりあげましょう。

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