エキスパンダー留置期間、シリコン種類の選択について

 9月5日に開催された岩平佳子ドクターのウェブ講演会(E-bec主催)は、コロナ禍にあって停滞している乳房再建の現状が、実は進捗しているのだと分かるものでした。およそ三年前、シリコン製造のアラガン社が撤退した時、エキスパンダーのまま様子見を余儀なくされた患者さんは全国で3000人以上いらしたそうです。その方々は現在、どうされているでしょうか。

今回のお話しで強くインプットされたのは、以下の3点でした。

一つ目は長くエキスパンダーを入れたままにしたケースの弊害です。

エキスパンダーは二年以上入れておくと破損の恐れがありますが、問題はそれだけではありません。長期間入れたままにしておくと皮膚がすっかり伸び切ったゴムのようになるので、インプラントをほど良く包む収縮力も失っています。その状態で入れ替えると、伸びきった空洞のなかでインプラントが反転し、しずく型の膨らみが上に回ってしまうケースが多い、と聞きました。エキスパンダー留置は8ヵ月が理想、というのが岩平ドクターの持論です。

二つ目はシエントラ社のザラツキのあるしずく型、アラガン社のスムースタイプのラウンド型のどちらを入れるか、ということです。日本人の多くはしずく型であると思われていますが、乳輪乳頭の位置によってはラウンド型が相応しい場合もあり、形だけでは判断出来ないようです。シエントラとアラガン社のシリコンを比較した場合、皮膜拘縮の割合はアラガン社が2パーセントくらい上回る程度、とのこと。メンター社の保険承認は期待出来ないので、こちらは選択肢の中には入りません。

三つ目は被膜拘縮についてです。

被膜拘縮とは決して特殊な不運ではなく、インプラントという異物を入れたからには誰にでも起る症状です。おおよそ、自覚症状のない無害な皮膜拘縮「1期」から、痛みが強く出る「4期」に分けらますが、4期の場合はインプラントと被膜を除去する手術が必要です。

時にはインプラントの一部分に突起物のようにとりついた皮膜が、尖って神経を圧迫して痛みを起こす場合もあるとのこと。小さく縮んだインプラントが上部に上がってしまった外観が、被膜拘縮のイメージですが、そればかりではなく「部分」の場合もあるのですね。

以前にサロンにいらした患者さんは、「一日おきに痛みが強く出る、医者には理解して貰えない」と辛い思いを話されました。もしかしたらその方は上記のように「ある種の被膜」に圧迫されていたのでしょうか。折しも緊急事態宣言が出てしまいましたが、痛みについてのセカンドオピニオンは必要かと思います。

エキスパンダー挿入からやり直しをする場合は、残念ながら保険は適用されません。インプラントに入替え落ち着いてからは、ヨガやストレッチなど運動をしている人の方が皮膜拘縮は少ないそうです。

それからドクターが声を大にしておっしゃったのは、一次再建(乳がん切除術とエキスパンダー挿入を同時にする)にこだわる必要はないということ。二次再建では古傷は治まっているから、かえってやりやすいのだと、以前から聞いていました。一次の場合は感染症を起こし易いリスクもあります。二次再建なら、再建したい「時」を選べる利便性もあります。また、現在は70歳台のインプラント再建者が多いそうです。 

いつもながら岩平ドクターは歯切れ良い、頼もしい口調でしたが、その底には、あまたの症例を通し、運、不運、幸い、不条理を知り尽くしている医師の独特の雰囲気がありました。難しい症例であっても、希望を持って来院した患者さんにはきちっとリスクを説明した上で、さらに勉強と熟慮を促す、確かな言葉を与えてくださるでしょう。

「ユーチューブ岩平チャンネル」、お勧めです。

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