乳がん治療相談リレーのご報告 ---2020.12.12---

 今回はタキサン系の抗がん剤を控えている患者さんAに、経験済みの患者さんBのお話をリレーしました。経験者Bさんはタキサン系のまえに「FEC」を投与していました。その時はお腹を下し気味で食べられず、痩せました。「FEC」が終わり、タキサン系に変わったら食欲が出たので喜ばしかったとのこと。味覚の変異はあり、脂っこいもの、味の濃いもの、塩味の唐揚げがエネルギー元になったそうです。時には歯茎が腫れて口の中が痛く、むくみが出た時は利尿剤を使ったとのこと。

また、タキサン系は酒酔いの症状が出るので、初回の点滴が始まって十分後にドキドキが始まり、それを看護師さんに訴えると、点滴の速度を落とし、倍の時間をかけてゆっくり入れてくれたそうです。

Bさんには職場の理解があり、丸ごと休むなら期間を区切って派遣社員を雇うし、常勤を続けるなら具合の悪い時には無理せず休むように、との扱いに救われました。家ですることも無く悶々とするより凌ぎやすかった、と。気持ちが悪くなった時は○○時まで頑張って、それでも無理なら帰ろう、と小刻みの意識で働いたそうです。次の電信柱を目印にして走るマラソン選手のようですね。

間もなくタキサン系の治療が始まるAさんは、脇のリンパ転移をやっつけるための治療です。

Aさんはご家族の事情でお忙しく、再建は待った、の状態で日々を忙しく過ごしていました。お風呂で胸元と脇を自己触診していた時、脇にくりっとしたしこりが触れ、すぐに病院へ行ったのです。クロと出たのですぐに放射線治療が始まり、25回を終えて今度はタキサン系投与です。しかし脇のリンパは、全身には広がっていませんでした。

脇は関所です。ここで徹底的に叩いておこうという医師の方針もAさんの積極的な姿勢も、正解だと感じます。Aさんも初発の時に抗がん剤治療を経験しているので「またやるのか」という苦しみ、「どうして自分ばかり?」という葛藤は想像に難くありません。何が強みとなったかというと、BさんもAさんも、今を全力で生きる忙しさなのですね。治療などさっさと済ませなくては、その後、あれもこれもやらなくては。何故なら、今が人生の夏だから。

ところでセンチネル生検のおかげで、今の患者さんが無為なリンパ浮腫に悩むことがなくなったのは、とても喜ばしいことです。

私はセンチネルを受けていません。乳がんは発覚時、脇に明らかに小豆粒大のしこりがありました。脇にも自覚症状が出る場合が多いのです。医師に「センチネルは不要です」と答え、乳房切除と同時に脇を郭清してもらい、八カ所のリンパ転移が発覚しました。

しかし乳がん発覚時にはセンチネル生検でセーフでも、手術後、何年か後に脇のリンパ節に転移する可能性が増えてきています。センチネルがセーフだった方も、末永く、脇の自己触診を是非忘れないで下さいね。

患者さんによっては同時再建でエキスパンダーを入れ、皮膚を伸ばしている段階でリンパ節転移が発覚し、エキスパンダーを取り出して治療、となるケースもあります。お辛いでしょうが治療を優先しましょうよ。その後のことはまた考えましょう。

 今年も乳がんの有用な薬が幾つか承認されました。喜ばしいことですが、製薬会社がその副作用について、医師、薬剤師に率直に情報を流しているとは思えず、患者の副作用の訴えに耳を貸さない、乳腺外科医のあまりの無理解に驚くことがあります。

ホルモン療法は十年服用すべし、となりました。十年飲み続けてどれだけの副作用に直面するかは、わたし達の時代が初めての経験です。このブログで幾度か書きましたが、乳腺外科医に「副作用ではないでしょうか」と相談した際、「関係無い、この薬には副作用はない」とあっさり言われることが、患者の不信感を招き、混乱することを医師に分って欲しいのです。女性ホルモンは体全体を守る働きをしていて、それを押さえ込む治療を十年続けるのだから、関係無いわけありません。

有力な患者サロンの初めの申し合わせに「不幸の比べ会いは止めましょう」とありました。大切な言葉だと思います。

乳がん患者は他のがん患者さんと比べると、急性期を過ぎれば美味しいものは食べられるし、一見色艶は良いし、「自分の経てきた○○の闘病と比べれば、乳がんなんて軽い軽い」。 このような励ましに傷ついた覚えがあります。乳がんが表(おもて)を切除して終わり、あるいは再建して元通り、となるとは限りません。長い抗がん剤治療、内分泌系の治療を控えている場合が多いのです。今や九人に一人という割合で増えてきたのは、生活環境、つまり女性ホルモン依存の乳がんが増えてきているからではないかと推察しています。

ホルモン感受性がどの程度あるか、つまりホルモン療法がどの程度効くか、病理検査の時の、「染色」の割合で判明するのではないでしょうか。割合が低ければ、休薬、あるいは完全に止めてしまうことも身を守る一つの方法です。医師がどう考えるかは医師によります。絶対に飲み続けなくてはいけないというタイプも、「止めてもいいよ」というタイプもいます。但し、止めたあとに再発する後に何が起るかは、患者さんの責任になります。

でも感受性が何パーセントと出ているのか、くらいのことは、患者さんは知っていても良いのではないでしょうか。私は二種類のホルモン感受性が「強陽性」と教えられたので「ホルモン療法で生きられる」と直感しました。そして長い副作用との共存、止め時をいつにするかの迷いなど、多くの患者さんと共有してきました。

ひとまず締めくくります。

 

 

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