「シリコンリコール」---患者は落ち着いて、最善の方法を(KSHS全国より)



 アラガンジャパンのテクスチャータイプの「シリコン」「エキスパンダー」,
リコールについてお聞きしたことをまとめます。


シリコンの周りに水が溜まり、悪性リンパ腫(=ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫 : 以下BIAAKCLと略します)を発症した例が、国内に1件報告された、というのを受けて、今回突然のリコールが発表されました(米国では573人が発症し、33人死亡しています)。


日本で発症した患者さんがシリコン挿入手術を受けたのは、(おそらく自費での輸入品でしょう)17年前のことでした。大変お気の毒です。しかし6年前にまえに保険適用になってからの症例では、まだ報告されていません。
世界的に平均年数を算出すると、挿入後9年で発症しているようです。


何故、テクスチャータイプ(表面にザラツキがあり体内で滑りにくく、左右対称を保ちやすい)のシリコンに、悪い水が溜まるのでしょう。現段階では推察の域を出ませんが、ザラツキの面積が広いケースで発症しているので、摩擦が原因はないか、とのこと。


ザラツキ度は製品によって「4321」に分けられ、アラガンジャパンの製品は「4」ないし「3」である。
また、スライドで見る限り、発症の多い欧米で使われているシリコンは、時に、サッカーボールのような大きさです。日本でこれほど大きなシリコンが使われている例は聞いたことがないので、被害の報告に煽られることはありません。


国内のシリコン再建3万人の内、1人の発症が確認されたからと言って、すでに挿入しているものを慌て抜去する必要はありません。「発症」イコール「死亡」ではないのです。その点もお含み置き下さい。


すでにシリコンが体内に入っている患者さんは、触診と定期検診のエコー(1回/一年、ないし、1回/半年)を怠らないでほしいとのこと。万一BIAALCAが発見された場合、その時に抜去すれば良いのです。
初期で発見できれば、抗がん剤等の治療は不要であるとの見通しです。


尚、これからエキスパンダーを挿入、あるいはすでにエキスパンダーを留置済で、シリコン入れ替えを、と準備していた患者さんは、今しばらく保留するように、あるDr.は勧めました(総力をあげて善処する医師達の覚悟が伝わってくる談話でした)。
但し、アラガンが回収するのは「仲卸」=問屋さんからです。すでに病院が買い取っているものについては、そのままです。
 



今回の報道に驚いた患者さんが、いきなりエキスパンダーを抜いてしまったら、一度は伸びた皮膚が萎んで癒着し、綺麗にはがす手術は大変です。


 

 ザラツキのない「スムース」タイプのシリコン、エキスパンダーはリコール対象ではありません。焦る気持ちのある患者さんは、スムースを求めるのでしょうか。しかしスムースタイプのシリコンの形はラウンド型で、日本人に多いしずく型ではありません。 

 アラガンジャパンでの「スムース」製造再開は九月から、と聞きましたが、しかしこれは、皮膜拘縮を起こしやすい、体内で滑りやすい旧式の物です。


あるいは六年前までの患者さんのように輸入シリコンを自費でゲットし、病院に持ち込んで100万かけて再建するでしょうか?


 


「歴史の軸を戻すようなことがあってはならない」(中村清吾Dr.


 


この日、登壇されたドクター達の内心は大きく二つに分かれていたようです。


患者の事情、思いに寄り添うべく、情報収集、働きかけ、相談、意思表明に向けて、寝不足の目を赤くしている医師。


保険適用のアラガン社のブツが無いなら、やりたい患者は100万かけて輸入品を使うしかないだろ、自分はそこまで考えないよ、と動じていない医師。


 

前記の寄り添いタイプ医師によれば、

「これから求めるべきは米国で承認されている他社製品、ザラツキ度「2」「1」のシリコンが早急に保険適用されることではないか」とのこと。

 

今回の問題を整理してみます。

発症の確率は低いのですから、重要なのはシリコン挿入済の患者さんが「BILALCL」のリスクをのみ込み、定期検診のエコー等をサボらないこと、何らかの自覚症状(患側がいきなり大きくなる、下部に水が溜まっている等)があったら、即刻診て貰うよう、自覚することだと思います。

 乳房再建は急がない方がよい、とオウムのようにここで繰り返してきましたが、患者さん達はどうか冷静になって下さい。焦ることも落ち込むこともないのです。

 今しばらく、切除と同時にエキスパンダーを入れる同時再建は不可能になります。
 エキスパンダーもシリコンも使わない、自家組織による同時再建(一時一期)は可能です。また、私の再建のように、皮膚ごと自家組織を移植する再建も、大丈夫です。


 老婆心ながら申し上げたいです。急ぐあまり、下手な医者にはかからないでね。きちっと切除術を受けて乳がん治療に専念し、今の状況が落ち着き、良化したら、その時再建を考えるのがベストではないでしょうか。市場から「物」が消えた、ただそれだけが問題なのです。より安全性の高い物が早晩登場するでしょう。
 がん哲学外来の樋野興夫ドクターの言葉を借りれば、「目下の急務は忍耐のみ」。 

 

懸念されるのは再建難民を自称する患者さんの不安につけ込んで、安全性の怪しい美容外科の広告が巷に踊ることです。当院なら○○万円でこのように、との参考写真を見せられるかもしれません。美容外科は医療ではありません。乳房再建は乳がんの治療の一環です。

もしかしたら患者さんが全摘を望んでいるのに、「今はシリコン再建出来ないのだから」、と変形著しい温存手術を医師に強く勧められるかもしれません。

軽挙妄動しないで下さい。

 

何故、こうまで問題が大きくなったのか。

アラガンジャパンのエキスパンダー、シリコンのみが保険適用品として市場に出回っていたからです。リコールするなら徐々に回収し、半年後には市場から引き上げる、同時に安全な代替製品を模索する、というような方法が採れなかったのでしょうか。 

 

会場内の心配顔の患者さんのために、主催のあややさんが脂肪注入の保険適用の可能性について、話題を向けて下さいました。

昨年は残念な結果でしたが、今年再び書類を揃え、厚労省の認可へ向けて準備をしているそうです。脂肪保険適用注入と一口にいっても、様々な方法がありますが、ここは頭を悩ませず、朗報を待ちましょう。

また、特記すべきは亀田メディカルセンターにおける、乳がんの切除不要の凍結療法です。休憩時間に福間英祐Dr.にお聞きしました。この13年間で304名の患者さんに施術し、局所再発は3名、全身転移は1名であったとのこと。
しこりの大きさや、病巣が乳房内に散っていないこと、現在、保険適用ではないので35~70万円要すなど、条件はありますが、選択肢として有効だと思います。

数年前の会で、「凍結療法は予後が悪い」と言い切った医師がいたので心配でしたが、十三年間のデータでこの数字なら、と納得しました。

 

11人に1人が罹ると言われている乳がん。今回のリコール騒動によって、現状から脱し、安全性と整容性のためにさらなる努力が課せられました。医師、患者の双方に、です。

今後、物凄い勢いで動いてゆくこの医療事情について、もっとも信頼が置けるのは『日本乳房オンコプラスチックサージャリー学会』のHPである、とのこと。今すぐ開けても(2019年、729日)そんなに早く動静は伺えませんが。
http://jopbs.umin.jp/general/index.html

BIAALCAを発症された患者さんのご経験を無駄にしないよう、私達は何故、再建しようとしているのかを今一度冷静に省みてみましょう。

 

ご自分をとりわけ不幸だと思わないで下さい。私は自家組織の再建なので、BIAALCAの心配はありません。が、腹部の組織を用いるとき、血管を沢山採取したため、時には癒着の痛みが起こります。腹部を伸ばして安静にすれば、1.2分で治まるのです。「綺麗に再建出来た。その後はふわふわ生きていればいい」とは思っていません。経験は形を変えて宝になります。

 

長くなるので、ひとまず締めくくります。ここにはリコールについて絞って記しましたが、第九回KSHS全国大会は、多角的な素晴らしい内容でした。
「メモ」の転記なので、誤りがあったらどうかご指摘下さい。

KSHSの皆様、---- いつも飾らない笑顔のあややさん、行き届いた心遣いのスタッフの方々----、今年もありがとうございました。







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