予防的乳房の切除に疑問


108日のサロンではまず、 KSさんがこの夏のKSHS全国大会を報告して下さいました。

新しい乳がん治療のガイドラインには、「遺伝子変異のために将来乳がんを発症しやすい女性には、予防的切除を積極的に薦める」とあり、すでに世間の話題にも上っています。南雲吉則Dr.特有の、美観を重んじる『シリコン一次一期再建』が活躍する分野かもしれません。しかし綺麗に再建するためにかなりの乳腺、脂肪を残すことになるので、数年後、残った部分から乳がんを発症する恐れはないのでしょうか。予防的切除というのはきわめて曖昧な措置ではないかと不安になります。そもそも断端陽性か否かの判断基準がないのですから。

それより、毎年きちっと検診を受け、発症した時(発症しないかもしれません)、その病巣をしっかり切除し、再発を抑えるためにオーダーメイドの補助治療を受ける、という方がずっと体に優しい気がします。これは個人的な思いに過ぎませんけれど。 

要所要所を押さえた報告を聞いて、心に刻まれたことがもう一つあります。それは名医、いわゆる症例数の多い含み豊かな医師は、何に付けても患者相手に軽く『断言』はしないものだ、ということでした。これ以上詳しくは書けない事情ですが、医師同士の座談会が目に浮かぶようでした。

乳房再建は苦労ばかりが多く、報われることが少ない、と形成外科医の間で言われてきたものですが、今や花形のような地位に変わってきました。先輩医師は後輩の適性を判断するのに悩ましいことでしょう。

メモを取りながら講演会を聞くことはかなりの集中力を要します。K・Sさん、貴重な記録を、本当にありがとう。

この日は初参加者の方が二名。うち一名は佐武利彦Dr.の穿通枝皮弁による再建手術を、六月下旬に受けたXさんでした。

八年前に同じ再建手術を受けた私も、脂肪を採った下腹部はスッキリしています。が、乳房直下の膨らみが気になるところです。

先のブログで書いたSOG講演会の報告に「脂肪吸引でお腹のくびれを作っておく」という例を紹介しましたが、その施術がこれにあたるのでしょう。Kさんの腹部は上部も下部も10代の娘さんのようスマートになっていました。上半身全てが若々しいのです。医療チームは前進あるのみで、絶えず新たな試みにチャレンジしている故です。羨ましい・・・・・・。 

Kさんはエキスパンダーを入れず、腹部の皮膚を直接移植したケースですが、パッチワークとは思えない、綺麗な仕上がりです。健側と比べるとややアンダーラインが下にありますが、それは通例のことで、修正で引き上げます。あえて大きめに作り、定着を確認してから土台の形をそろえ、同時に乳輪乳頭を作るのです。Kさんは再建にあたり、家族全員から猛反対を受けました。しかし再建した後、「もうこのままで良いかな」と口にしたところ、ご家族が「最後までやりなさい、せっかくなんだから」という具合に変わったそうです。きっと出来映えを見て、嬉しかったのでしょうね。

ケロイド体質ということで、傷の周りに心なしか雲のような広がりが見えますが、このような症例は放射線やステロイド注射で、三年くらいすれば綺麗になるとのこと、それもSOG講演会での佐武Drのお話にあったことです。とまれ、自家組織再建の術後、四ヶ月のお胸を見せていただけたことはラッキーでした。

傷跡が消えるのに時間がかかる、と悩んでいる方が多いようですが、年単位で薄くなります。私の場合、ピンク色に変わっていった傷のラインが、白く抜けて行くまでに3年要したでしょうか。

他には、エキスパンダーの生理食塩水の注入が終わり、地元での穿通枝皮弁による手術を待つ方、シリコン再建を完成し、デコルテに脂肪注入をして整える予定の方、脂肪注入の再建にあたり、もっと太るようにと指示されている方、等、様々な進捗の患者さんが参加してくれました。

ところで今、がんと就労の問題がクローズアップされています。職場の理解さえ得られれば、退職せずにがん治療、再建手術を経て、職場に復帰できるケースが増えています。それが好ましいには違いないのですが、ご本人は大変な努力をしています。仕事中にいきなりホットフラッシュが来た覚えは、私も幾度かあります。

その上、闘病と仕事だけで済むわけではないかもしれません。親の介護、子供の受験、エトセトラ。

とにかく体の声に耳を澄ませて、まず、がん治療をしっかりこなし、それから再建を、という平凡な結論しかお勧めできません。皆様、急ぎすぎずに歩みを進めましょうね。

シャロンのカンパで新たな再建本を購入し、貸し出しています。Sさんには突然、図書係をお願いしてしまいした。お一人で大変でしたら、どなたかに補佐をお願いします。どうぞよろしく。

 
 以下、私事で恐縮ですが、サロンの翌々日、マンモとエコー検査にパスしました。十二年目ですね、と医師に言われて、ああ、十二年経ったのか、あのどん底の日々から。-----認知症の親の徘徊、詐欺被害の裁判、抗がん剤の副作用-----痛切な記憶がよみがえりました。でも次の瞬間、今はなんて幸せなんだろう、との思いが一気に押し寄せ、外に出ると秋の匂いです。自由な大気のなかを踏み出しました。

二ヶ月に一度のサロンで皆さんと語らい、自分にはわからないご事情に耳を傾け、視野を広めて勇気づけられ、なんて恵まれたひと時でしょう。

ちょっと早いですが、次のサロンは128日(土)午後二時から。この夜にクリスマス会をします。ご都合のつく方、カレンダーに丸をお願いします。会場はある種の人に有名な、あのロングサンドホテルのレストランです。

 

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