寺尾保信医師 『講演会の全記録』
2018.7.28 群馬県庁 2階ビジターセンター
シャロン前橋 特別講演
「乳房再建の術前と術後で考えること」
乳房再建って何?
・乳がん治療の一環。美容手術ではない。保険適用になる。
・これから乳がん治療を受ける人も、治療中の人も、治療がすでに終わった人も、(基本的に)全ての人が再建を受けられる。
・再建したい理由は、患者それぞれである。年齢には関係ない。再建したい人はする、したくない人はしない。
Ⅰ 整容性の選択
『オンコプラスティックサージャリー』=整容性を考慮した乳がん治療を云う
乳房温存療法、再建手術がこれに含まれる
整容性は自分で選択するもの
早期がんでは、医師は患者に、乳房切除と同時に再建の情報をも提供しておくこと
:ガイドラインで定められている。
〔自分は早期がんでも進行がんでも、再建については説明すべきだと考えている〕
形成外科医は整容性を重視しているが、何を望むかは、患者本人が考え選択すること。
治療のどの段階で、患者は乳房の整容性(再建の方法など)を考えたらよいか?
一次再建=(同時再建とも言い換えられる):乳がんの切除+エキスパンダー挿入、切除+シリコン挿入、切除+自家組織移植
短所:自分に合った方法をゆっくり考える時間がなく、正しい選択が難しい。
施設
同時再建できる病院は限られている。再建するために病院を転院することは可能。しかし同時再建するために数ヶ月も待たなければならないとしたら、乳がんの治療が遅れてしまう。主治医とよく相談し、状態によっては、再建よりも治療を優先してほしい
再建できるステージ
・ インプラントは0期~Ⅱ期まで可能。Ⅲ期は不可と言われているが、得に根拠はない。
・ 自家組織はステージによる基準はない。乳腺外科の主治医の考え方次第。
・ 炎症性乳がんではインプラントの場合、感染するリスクが上がる。
ルミナールタイプ
ホルモンタイプは再建の術式に影響しない。医師によっては、トリプルネガティブに対しては慎重になる傾向がある。一次より、二次再建を勧める場合もある。
既往歴
乳がん手術に耐えられる体力があれば誰でも再建できる。ただし、長時間、複数回の全身麻酔の手術に耐えられないような『合併症』のあるなら、不可。
一般的な糖尿病や高血圧はおおむね問題ない。
×喫煙 必ず禁煙すること。
二次再建 : 乳がん治療との関係
・ ホルモン療法の途中でも再建できる。
・
抗がん剤治療は、終わってから最低でも1ヶ月はあけてから再建。
・
放射線治療は終了後、半年から一年経ってから、再建。
基本的には誰でも受けられる。
Ⅱ 乳房温存療法
・温存療法が可能な患者にも,全摘して再建する選択肢があることは、説明すべきである。
・温存できるからといって、必ず温存しなければならないわけではない。温存療法は適応のある患者には良い治療法だが、全摘手術より、長期的な局所再発率は高くなるし、新規乳癌のリスクもある。
・放射線治療が、術後5週間必要になる(育児や仕事のために毎日の通院が困難だから、全 摘が良いと言う患者もいる)。
・温存適応の患者の中には、医師から『全摘+再建方式』の説明が無く、温存を強く勧められるケースもある。その結果、局所再発してしまい「なぜあの時、全摘してくれなかったのか」と患者もいる。医師は色々な選択肢があることを、あらかじめ説明すべきである。
・温存の結果、乳房の著しい変形や居所再発の問題もあるため、現在、乳腺外科の医師は無理のある温存を止める方向に傾いている。
患者の希望を聞き入れるようになった結果、温存療法を選択する患者が減り、全摘出を選択する人が増えてきた。6(全摘):4(温存)で、全摘が多いのが現状。
一方、全摘しても再建しない人が増えてきた。
一次再建は出来ない患者もいる。また出来たとしても、希望しない患者もいる
今後は、乳がんの手術をせず、放射線と抗がん剤のみので治療する方式が始まるだろう。また、健側を予防切除する、両側を予防切除して再建する、などの、治療方法も増えるだろう。
選択肢はますます広がるが、いずれにしろ、医師が決めるのではなく患者の意思によるべきだ。
『整容性』については、患者は選択しなければならない課題に、連続して向き合うことになる。その精神的負担が大きい。後になり、その選択が正しかったと捉えるかどうかもまた、患者の考え方によるものである。
乳がん治療における整容性の選択は、「がんをしっかり治すことを一番。その上で整容性を考える」のがルール。
そこを外さなければ、何を選択しても正解である。
根治性を無視し,形ばかりを目指すのはやめてほしい。
Ⅲ 乳がん治療と再建
・一次再建は、治療に影響があってはいけない(手術日程が遅れたり、合併症による術後治療の遅れなどが起こらないようにしなければならない)。その配慮があれば、一次再建を行うことで再発のリスクが高くなることはない。
患者は同時再建のために手術を先延ばしたり、乳がんを放置したりしないこと。
医師は合併症を起こさない手術を行う、合併症が出たら速やかに対応すること。
・きれいな乳房再建を優先するあまり、(乳がんの病巣の)部分を少なく切り取ることは、再発のリスクを上げる。リスクを上げる『断端陽性率』を上げないように、しっかり切除すべきである。乳房再建のために、がんの根治性を犠牲にしてはいけない。
『オンコプラスティックサージャリー』とは、整容性(美しい再建)と根治性(がんの再発を抑える)を天秤にかけることではない。
根治性の上に整容性が乗らなくてはいけない。
これさえ守っていれば、再建はがん治療に悪影響を及ぼさない。
・一次再建は乳がん治療に影響しないか?
がんが広がっていて切除が広範囲に渡る場合、インプラントの再建では美しい仕上がりにならない可能性あり。また、放射線治療は再建に影響する。インプラントは感染のリスクが上がる。
術後に放射線治療が予測される場合に自家組織で一次再建を行うと、移植した組織(再建した乳房)にも放射線がかかってしまうのでもったいない。その意味で二次再建の方が望ましいが、同時に行うメリットと上記のデメリットを比べて判断すること。
Ⅳ 再建する理由
若くても再建しない人がいる、高齢でも再建する人はいる。
一次再建と二次再建では、動機が多少異なる。二次再建の方が理由ははっきりしている
再建する理由
・温泉に行くために(年齢に関係なく、再建患者の4~5割)
・家族のため(子供や夫)
・乳房がなくなることを受け入れられない
・温存ではなく、そもそも全摘したかった。全摘で手術をやり直したい。そのためには再建が必要
・女性なので当然だ
・ファッションのため(ウエディングドレス,舞台衣装,和服を着る)
・趣味のため(フラダンス,社交ダンスなど)
抗がん剤治療、ホルモン療法などを受けている時の、QOL(生活の質)は大切。再建にのぞむことで、精神的に癒されたいという動機もある。
再建しない理由
・必要性を感じない(40歳代でも2割)
・乳がん治療の不安があり、再建まで気持ちが回らない。再建そのものへの不安もある。
温存療法も可能だが、あえて全摘手術を選ぶ理由
駒込病院では温存できる患者でも1/4が全摘手術を受けている。
・再発や新たな乳がんが心配だから、 乳腺を残したくない。
・家族や知人が温存療法で再発した。
・放射線治療を受けたくない。
・温存後の変形が心配。
一次再建と二次再建
・一次再建を望む理由には、【乳房再建とは何か】の本質がある。
QOLを維持したいというだけでなく、乳房を失ってしまう動揺を避けたい、治療後に社会復帰した際、不便を経験したくない、など。
・一次再建をしない選択肢も非常に重要だ。二次再建の選択肢も大事にして欲しい。
・一次再建に向かうことで。患者の気持ちの負担が重くなるのはいけない。
・二次再建できることや、再建をしない、という選択肢もあることを知っておくこと。
Ⅴ 再建方法
インプラント、自家組織、それぞれに良い点、欠点がある。どの方法が自分にフィットするかを考えることが大事である。
インプラント
・下垂が少ない乳房に適している
・大きい乳房だと不便を感じることがある(重い、冷たいなど)。
・豊胸手術は保険適用外。
長所
・腹部などほかの部位に傷がつかない
・日常生活に早く戻れる
・手術時の体の負担は軽くて済む。
短所
・放射線治療をすると感染などのリスクが上がる。
・圧迫感,違和感あり・生涯メンテナンスが必要
・当初、バランスのよい再建をしても体型,体重の変化で非対称になってしまうことがある。
インプラントを入れて,10年後に自家組織に手術する人もいる。
インプラントの合併症
感染、露出、サイズが合わない、上胸部陥没、回転、リップリング(しわが出る)、硬さを感じる等
最近は自家組織の満足度が高い、優れているという風潮がある。が、一方、乳がんになった患者が一次再建を目前に控え、「どうしようか」と深く迷うとき、体に負担が少ないインプラントの利点は非常に大きい。
インプラントの再建では色々な事が起こるので、その特徴や欠点をあらかじめよく知っておいてほしい。
・人工物として、自ら使いこなすことが大事。
・人工物としての限界を、患者にはわかってほしい。医師はその限界を乗り越える努力をしたい。それによって患者の満足度は上がる。
インプラントと広背筋を組み合わせて,柔らかい乳房も作れる。
インプラント+広背筋皮弁は利点が多い。自然に動き柔らかいので今後、さらに利点が見直されるだろう。
・ どんなサイズでもOK
・下垂した乳房も作れる。上胸部の凹みも埋められる。
・ 圧迫感なし,違和感なし
・ 暖かみがあり,メンテナンスは不要
・
体型の変化に対応し、自然である。
短所・(家族制乳がんなどで)両側を乳がんに侵されるリスクが高い人は、自家組織には慎重になってほしい。
→ 反対側が乳がんになったとき、どうするか。また自家組織で再建しようとしても、お腹からの移植は出来ない。
・手術時の負担は大きい。お腹に傷ができる。
広背筋は小~中サイズの乳房に向いている
縦に下垂した乳房、外に広がる乳房等、おのおのの形の特徴を出してゆけるのが自家組
織の長所だが、技術的には容易くない、大きな仕事。
× お腹や背中に傷ができる。だんだん薄くなっていくが、完全に消えることはない
Ⅵ 再建乳房の長期的変化
・患者の乳房の形や体型は長期的に変化する。
・患者のライフステージも変化してゆく。結婚、出産、育児、仕事、新しい趣味など。
・反対側の乳がん発症もありうる。
・バランスのよい再建しても体型,体重の変化で非対称になってしまうことがある。
・術後に人生のステージが変わっていくのに伴い、ライフスタイルも変わり、その結果、再建した乳房がその患者に合わなくなることもあり得る。
・すぐには修正を望まなくても、その後、気持ちや生活の変化が起こる。乳がん治療10年の区切り、インプラントの入替え、保険適用など、再建を取り巻く環境の変化をきっかけに、修正してみようという気持ちが起こる。
医療や医師も変化し,乳房再建の認知で携わる医師の増加、保険適用、スキルアップ等。
・自家組織の場合は、体重の増減は影響なく、乳房も同様に大きくなったり小さくなったりする。
・インプラントは露出、感染、回転、ずれる、波打ち現象、皮膜拘縮など、色々なことが起こり得る。体重の増減により、インプラントの乳房が大きく見えたり小さく見えたりする。
インプラントで再建した人は、後から自家組織で再建をやり直せる。
患者は不満足な結果にならないよう、医師は努力したい。不満足になってしまった場合は、どんな不満なのか、患者と共に認識することが大事。修正の提案をするが、患者がすぐに修正手術を受けられない場合は、その事情も理解したい。
患者が再建手術を受けたくなった時に、そのための体制を維持することが大切。医師の人事異動等で、再建難民の患者が出るようではいけない。
患者には再建したことを忘れて過ごしてほしい。
しかし医師は再建したら終わりではなく、『そこから始まるのだ』ということを頭に刻んでほしい。再建した患者のことを忘れてはいけない。
〔 疾風 勁草を知る 〕―患者さんの手紙から
強い風が吹いた時に、吹き飛ばされない強さやしなやかさが必要。 強い風が吹いた時に、初めて強い自分を知ることができる。
ぜひ強さとしなやかさをもって、乳がんという強い風を乗り切ってほしい。そのために、乳房再建がお役に立てれば、医師として嬉しいことである。
※駒込病院のHPから形成外科に入ると、乳房再建のページがある。その中に質問コーナーがあるので質問して下さい。時間がかかるかもしれないがお答えします。色々な情報も載っているのでご覧ください
メールアドレス y.terao@cick.jp2018.7.28
Oさんは、以前に『シリコン~エキスパンダー全行程』を記録し、シャロンのブログに寄せてくれました。またMさんは治療と仕事に忙しい日々を送りながら、現在、再建の方法を模索しています。
寺尾保信先生に文面をご確認いただき、ブログとしてアップさせていただく運びとなりました。講演会に来たくとも、気象、家族の介護、子供の世話などで来られない人達が沢山いました。この記事がお役に立ちますように。
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