勝俣範之Dr.講演「がんとうまく付き合っていくために」ぴあサポ群馬公開講座:ご報告


H29年7月8日(土)の勝俣Dr.の講演は、専門的な内容で、尚、判りやすいものでした。

総論で強調されていたのは、『緩和ケア』の本来の意味でした。

 

終末期だけの治療ではなく、がんに罹患した段階から、症状を軽くし、生活の質を維持し、悩みを解消できるよう工夫することを『緩和ケア』と言います。

より早い段階から緩和ケアを受けた患者は、終末期になってから数千万円の新薬を投与するより、寿命を延ばすことができることがわかっています。

 

勝俣範之Dr.は腫瘍内科医、つまり抗がん剤治療の専門医です。

1人の患者を取り巻くチーム医療の、全体を把握してコーディネートするのもまた、腫瘍内科医の重要な役割だそうです。やみくもに抗がん剤を勧めず、「ある段階にきたら、投与を控え、QOLを上げて人生を楽しんで欲しい」と説く姿勢に、信頼が置けました。

 

質疑応答では、会場からの質問用紙をスタッフがまとめ、勝俣Dr.が丁寧に答えてゆきます。 

 

〇血液や遺伝子から、がんが早期発見できるのでしょうか。

 

・血液からがんを早期発見できるかどうか、まだ試みの段階です。実用化されていません。

・遺伝子カウンセラーは国内では、聖路加、がん研有明などで症例を重ねているが、遺伝子ですべてがわかるわけではありません。今のところ、遺伝子検査は家族歴のある患者さんにのみ勧めたいものです。

 

〇抗がん剤の副作用がほとんど出ないのですが、本当に効いているのでしょうか

 

抗がん剤の効果と、副作用の度合いとは、関係ありません。

例外は大腸がんの薬『アービタックス』。これは皮膚障害が出ると効果がある証拠とされています。

 

〇腫瘍マーカーは低いのに、抗がん剤治療を勧められた、本当に抗がん剤治療の必要があるのでしょうか?

 

何かのきっかけで上がったり下がったりするのが腫瘍マーカーです。腫瘍マーカーだけで判断するのは危険です。

 

○抗がん剤副作用のしびれが辛い

 しびれは神経障害です。残念ながら特効薬がありません。お風呂にゆっくり入るのが良いでしょう。

 

〇抗がん剤は脳に効かないと云われているが?

 

 脳は大事にブロックされている組織なので、抗がん剤の及ばない場合もある、が、薬によっては効果がある。

(脳転移しているある乳がんの患者さんが、タイケルブ+ゼローダの効果が上がって医師からの余命宣告をなぎ倒し、サロンに遊びにきてくれたことがありました)

抗がん剤以外の治療は、ガンマナイフなどの放射線が好ましい。 

 

〇サプリは抗がん剤の効き目を弱めると聞いたが?

 

・医師に相談してサプリの成分を確認してほしい。

・エストロゲンの分泌を促す漢方薬があり、それは乳がんには好ましくない。 

・(食べ物ではグレープフルーツが目の敵にされています。グレープフルーツは肝臓の解毒作用を妨げるので、吐き気などの副作用が強く出てしまうとうのを聞いたことがあります)抗がん剤投与の直後にグレープフルーツを丸ごと二つも食べれば、もちろん良いことはないでしょう。

 

〇乳がん患者です。ホルモン療法はすべての人に効くと言われましたが?

 

 病理検査の染色の度合いによります。また閉経前と閉経後では薬の種類が異なります。

 

〇再発がんに、分子治療薬『ハーセプチン』は効果があるのでしょうか 

 

Her2たんぱくが出ているがんには、効果が続きます。

 

○がんの痛みについて

 

医療用麻薬をうまく使ってほしい。効果が無ければ、増量するか種類を変えればよい。がん末のケアに使う医療用麻薬の量に上限はない。緩和ケアの専門医にかかることを勧めます。緩和ケアの専門の薬剤師や看護師もいます。

 

〇主治医から(治療を)諦めてほしいと言われショックを受けています。

 

標準治療を諦めるように勧められたとしても、人生を諦める必要はない。緩和ケアをしっかり受けてQOLを上げてほしい。緩和ケアは諦めの治療ではない。

患者にとってつらいのは見放されることだ。そのような状況に陥った患者がワラにもすがる思いで治療法を探している時、本当に『ワラ』に過ぎないものを与え、高額な請求をしている悪徳業者がいる。それを信じていると、患者にとって大切な時間が無駄になってしまう。

終末期の患者さんのために、旅行会社にがん患者用の旅行プランを作らせ、ハワイ旅行を楽しんでもらったケースがある。その患者さんは満足して帰国し、その後、緩和病棟に入院した。そのように上手に時間を使って欲しい。

 

がん治療を勧めるITサイトで信頼できるのは1割です。可も無く不可も無しが4割、半数は悪質なものです。

 

インチキを見分けるコツ

× 保険効かない自費医療

× がんが消えた、治った、をうたい文句にしている宣伝

× 効果のあった患者さんの例が紹介されている(実際には抗がん剤など他の療法も取り入れている) 

 

○がん免疫療法の一つ、『細胞○○療法○リンパ○○球』はどうなのか。

 

良いことは一つもないインチキです。多くのクリニックでやっていますが。何百万もかかります。そんなに効くならとっくに保険適用になっています

 

 

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その他

・玄米を毎日食べ、菜食主義を徹底している人も多いが、それで再発が防げるというエビデンスは無い。刺身、寿司などが好きな人は我慢する必要はありません(先の深谷の乳がんフォーラムでも、ナマ物は問題ない。肉や魚から良質なたんぱく質を摂ることは、がん患者には大切なことだ、というお話がありました)。

 

・大腸がんは再発を早期に発見するとメリットがあるが、他のがんでは再発の早期発見はあまり必要ないとされている。

 

・書店で手に入る診療ガイドライン(乳がん患者さんにとっては『乳がん患者さんのための 診療ガイドライン』 最新年度版」を読むことを勧めたい。

(何故かこの種の、公平な書物を敬遠したがる患者さんもいます。安易な希望をそそる甘言の記載がないので、寂しいのでしょうか)

 

・数年前に胆管がんで亡くなった女優のXさんは『がんは治療するな』という近藤誠説を信じた一人です。早期発見だったのに抗がん剤を拒否して半年放置し、ごしんじょう療法(金の延べ棒で体をなする)を頼みにし、そして亡くなりました。 

(抗がん剤治療により髪が無くなり、色つやが悪くなり、女優として活躍できなくなる辛さもあったのでしょうか。でも抗がん剤治療の副作用はエンドレスではありません。一時期を忍べば、仕事に復帰するケースがほとんどです)

 

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未だ『近藤誠説』に取りすがり、手遅れにさせてしまう患者さんは後を絶ちません。

シャロンに参加された患者さんから、近藤誠の主張をどう思いますか、と聞かれたことがありました。「半分はわかりますが、半分は信用できません」と応えました。しかしそれから何年も経っています。最近、近藤誠Dr.の「がんは治療するな、放置しろ」の主張はますます先鋭化して極端な決めつけが多くなっています。

過剰診療で苦しまないためにも、抗がん剤を上手に扱う腫瘍内科医の存在が貴重なのだ、と、今回の講演会で感じました。

 

勝俣Dr.の著書のサイン会で「近藤誠Dr.は何故、ああいうふうになったのでしょう」とお聞きしてみると、「何故でしょう、孤立していたのでしょうね。初めは良い人だったんですよ」というお答えでした。視野と含蓄を感じました。

ここでご報告した内容は講演の一部です。勝俣Dr.が広めようとしている情報をさらに的確にキャッチされたい方は 著書をお読みください。

「『抗がん剤は効かない』の罪」 勝俣範之著 (2014年毎日新聞社刊)

「医療否定本の嘘」 勝俣範之著 (2015年扶桑社刊) 

 

読売新聞の本田麻由美記者、がん哲学外来の樋野興雄Dr. そして今回の勝俣範之Dr.、と、ぴあサポ群馬の講演会は、苦しんでいる患者が求めるタイムリーな、具体的なテーマです。患者組織であればこそ、このような視点で企画されるのでしょう。

 

先日、群馬県立図書館に『シャロン前橋』のご案内をお持ちすると、職員の方がすぐにポスターを貼り、チラシを置いて下さいました。公的機関のこのような協力は、とてもありがたいです。

次の街角サロンは8月12日(土)午後二時から。会場は群馬県立図書館の三階、研究室です。 「乳房再建ネットワークシャロンm」HP http://charon.webcrow.jp

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