第三回 『E-BeC特別セミナー』に参加して







 今回の講師は横浜市立大付属 市民総合医療センター 形成外科医:佐武利彦Dr.と岐阜県美濃加茂市の木沢記念病院 形成外科医:高木美香子Dr.です。

大きなトピックスは、脂肪注入の再建が実績を上げていること、3Dカメラによるシリコン再建の進歩でした。

【脂肪注入による再建】



脂肪注入の準備段階で、吸引式の拡張期(ブラバ、ヌーグルベリーなど)を夜、10時間、1ヶ月間装着し、注入しやすいスペースを体内につくるのですが、閉経後の女性は皮膚トラブルが多くなるので、装着は勧められない。果たして本当にこの拡張器を使う必要があるのか、今、国内外で議論されているとのこと。


注入は2、3回必要です。一回の注入後は6ヶ月以上空ける必要があるのだから、長帳場ですね。

乳房の切除の後、堅くなっている皮膚には脂肪注入しづらいので、皮膚を緩める必要があります。スライド画面いっぱいに、皮膚をひっぱりながら太い注射針のような器具で、小さな穴を無数に空けてゆく場面が映し出されました。脂肪注入は赤身の牛肉を霜降り牛に変えてゆくようなもの、という喩えの通りでした。

『脂肪注入の同時再建』とは乳がんの切除時に、一回目の脂肪注入をしておく、ということですが、それによって皮膚が硬くなるのを防ぐ効果もあるのでしょうか。この方法で放射線をあびた皮膚を柔らかくできるそうです。


 症例数が増えてゆけば、このようなケースでは成功しないという負の事例もまた、数多く紹介されてゆくのでしょう。
「ちょっとした乳房のくぼみなど、軽い変形部分に埋め込む程度の脂肪注入は、2020年くらいを目途に保険適用を目指している。いずれ乳房全体の再建にも保険適用を、と願っているが、技術は非常に難しいので、(免許皆伝には)慎重にならざるを得ない」。

シリコンが保険適応になった段階で、多くの病院が名乗りを上げ、不十分な技術で患者が泣かされています。それをふまえてのことなのでしょう、佐武Dr.にしては珍しく難度の高さを強調されました。

脂肪注入の練習の光景も紹介されました。

第二回の報告と重なるので簡潔に記しますが、注入の練習には透き通った寒天やマウスを使います。顕微鏡サイズでは黄色いツブツブに見える脂肪組織を、まっすぐ、隙無く、ミミズ状に並べて注入してゆきます。運動選手が練習していることを忘れるまで練習し、技術を忘れるまで技術を叩き込むのを同じ回数、集中力が必要になるのではないでしょうか。

これらの場面を大きなスライドで見ていると、私たち患者が、難しい乳房再建を楽観的に捉えているのを実感します。佐武Dr.の再建本には、希望を持って明るい気持ちで手術を受けて欲しい、とありますが、それは患者側が十分に勉強して再建市場をリサーチし、ドクターを選び覚悟を決めた上で、ということなのだと思います。

 

3Dカメラ『ベクトラ』(装置名)について】

高木美香子Dr.から詳しい説明がありました。

それは再建シュミレーションを通し、自分の再建後のお胸を見られて楽しくなる、というだけの装置ではありません。シュミレーションを体験した上で、シリコン再建を考え直す患者さんも出てくるはずです。

シリコンがもっとも適しているのは250ccくらいのサイズ、大きく下垂したお胸にシリコンは無理ですし、きわめて慎ましいお胸にも、無理があります。

『ベクトラ』で片側乳房を喪失したお胸を撮影すると、左右対称に適したシリコンサイズが提示されます。適したというのは、より近いと言う意味です。つまりこのシュミレーションによって、いかなるサイズでも左右対称にするのは難しい、だから健側をつり上げたり、縮小したりしなければならない。それがはっきり分かれば、自家組織に切り替える患者さんも出てきます。

 このような装置が考案された理由の一つに、その患者さんにふさわしいシリコンを決める難しさがあったのでは、と思います。見立てが難しい、ということの他に、お胸に残っている皮膚の厚みや組織は人それぞれです。大胸筋の下にシリコンを入れるのですから、仕上がりが大きくなりがちなのは致し方ない。とはいえ、やはりイメージと異なる結果は患者さんにとってショックです。

 3Dカメラはそのようなミスマッチを少なくしてくれる機械です。

 『ベクトラ』を導入している病院はそう多くありません。患者にとっては有り難い装置ですが、撮影とアドバイスは病院の収入に直接結びつくものではありません。

このような講演会で経験できるのはとても幸運なことですね。

シリコン再建で下垂のラインをうまく作るため、真皮を入れる方法が実践されている」。高木Dr.はそれを伝授してくれた杏林大学の白石知大Dr.の名前をとって『白石法』と名付けているそうです。小さなお子様を育てながら国内を行脚し、ベテランDr.から再建の新手法を取り込んでいる、高木美香子Dr.の情熱が伝わってきました。

順調ではないケースもまた、これから再建する人には大事です。

 被膜拘縮や破損を理由に、シリコンを抜去するの患者さんは32パーセント。被膜拘縮は誰に起こるかわからない。

▲3Dカメラを使っても、シュミレーション通りの乳房が作れるとは限らない。

 

   体 感 会

以前の体感会では、見せる方も見る方もおっかなびっくりでしたが、今では再建過程に何が起こったか、今後トラブルが起こったらどのように対処してゆくか、活発に話し合われていました。

・シリコン再建の綺麗な事例を見せてくれたXさんに、シリコンサイズを決定した過程を質問しました(3Dカメラ未使用の病院)。エキスパンダーで皮膚がちょうどよく伸び、左右対称になった段階で、サイズを割り出したそうです。ベストのサイズに行き着くまで、かなり丁寧な相談をしたようです。

・被膜拘縮を起こした後、被膜を切り取って再度シリコンを入れたYさんにお聞きしました。被膜拘縮には重苦しい圧迫感や痛みがあるそうです。被膜を除き、シリコンを再挿入する手術は、岩平佳子Dr.のブレストサージャリ-では日帰り手術です。けれど、被膜拘縮を起こす体質ならば、再度挿入しても、いつかはまた異物反応を起こし、拘縮する可能性が高いそうです。ではどうしたら良いのか。自家組織でやり直す方法があります。

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私が罹患した11年前は、乳がんは25人に一人でした。一年前には12人に一人と聞いたのですが、この日は「現在11人に一人、10年後には欧米並みに6~8人に一人となっているだろう」とのこと。食生活も習慣もすっかり欧米並なのですから。

でも私たちには、納豆、豆腐、味噌汁という食習慣があります。「大豆イソフラボンは、乳がんの発症、再発を抑える」と、5月の深谷フォーラムで、矢形寛Dr.から伺い、ホッとしたのを思い出しました。

 

  質疑応答の時間

再建の文献に見当たらないような切実な話題が耳に残りました。

保険適用前の旧インプラントが今、入っている。それが破損して新インプラントに入替える場合、保険適用か。

 保険適用です。

片側に旧インプラントが入っている状態で、健側も乳がんになってしまったら? 新インプラント再建と、旧インプラント入替えを同時に行い、左右対称にしたい。そのときの保険適用は?

・保険適用です。自己負担限度額は変わらないのだから(社会保険、国民健康保険に加入している)患者さんが支払う費用は同じです。

・ただし、同時に行うからといって、左右対称になるとは限らない。旧インプラトが入っている方の皮膚組織がどうなっているかが、問題。

抗がん剤治療を受けている身だが、脂肪注入の再建は出来るのか。

抗がん剤投与が終わり、体調が戻れば大丈夫です。

エキスパンダーが180度回転していまい、しずく型の厚みが上へ行ってしまった。このままシリコンを入れても良いのか。

皮膚の伸び具合にもよる。伸ばすべきところが伸びていることが大事。もし、エキスパンダーを入替えて、位置矯正するなら、局所麻酔で可能だと思うが手術は慎重に。

健側からの移植について。

 両側がんの可能性がないこと(家族制がんではない)などを確認した上で行う。

組織は健側の上部から移植する。当然、健側の乳輪乳頭の位置が上がってしまう。乳輪乳頭の位置の修正は、お胸の上部の皮膚を伸ばしたり、内部の組織を動かして修正することも可能。いずれにしろ、修正手術の際に同時にできるでしょう。

ただし、健側からの移植は技術的に難しく、佐武Dr.に10例あるのみ、とのことです。

ここで紹介された実例はあくまでも、佐武利彦Dr.と高木美香子Dr.という、寝ても覚めても乳房再建を研究しているオーソリティによるものです。患者にとってはこのような機会に最先端の技術を知り、地元に帰って同じ腕を担当医に求めるには無理があります。悩ましいところです。

【その他】

乳房再建にとって肥満は大きなリスク。BMI指数(体重kg÷身長m÷身長m)=25以下まで落としてほしい。 

私は152センチのおチビです。本当の体重は秘密ですが、152センチ(1.52m)から逆算すると、「BMI指数=25」の体重は、約57キロ。でも57キロといえば、かなりのフックラ型です。「25以下に落として欲しい」と言うことは、それ以上ポッチャリしている人には、綺麗に再建してあげられません、というドクターの悲鳴に聞こえました。

乳がん切除のとき、とりあえずエキスパンダーを入れておき、再建法は後からゆっくり考える、というのが主流になりつつある。が、穿通枝皮弁や筋皮弁による再建手術は、切除と同時に組織を移植する方が、医師にとってはやりやすい。移植する量やデザインが、その場ですぐにわかるから。

患者さんにとって、自家移植の同時再建をしてもらえるならありがたいですが、再建に定評ある病院は外来受診さえ、かなり待たされます。すぐに同時再建してくれる医師、病院をどのように探せば良いのでしょう。お知恵のある方、どうか教えて下さい。 

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講演会が終わっても、両Dr.への質問者の行列が自然にできてしまいました。お疲れのところ、誠意をもって答えて下さるDr.達の人格に、私は感動しました。「先生にはお車の時間があるのですが」と、ハラハラと見守っていたスタッフの皆様、ごめんなさい。

佐武ドクターはこの日、夜勤明けだったそうです。だからなかなか片目が空かなかったのですね。質疑応答の頃にはパッチリしていましたが。

かみ砕いて説明して下さったのですが、脂肪注入の再建のお話は、やはり私には難しかったです。でも昨年のE-BeCの講演会の頃よりさらに症例を重ね、どんどん身近なものになっているのが分かりました。上手なDr.が増えて、一日も早く保険適用になってほしいです。

この講演会が早めに告知されていたおかげか、会場では都外から参加している患者さんを沢山見かけました。情報のテリトリーを「足」で広げてゆく層が厚くなっています。

終了した夕刻、シャロン前橋のなじみの患者さん達と、カフェでおしゃべりしました。「来て、本当に良かった」の言葉は、この講演会に足を向けたすべての人の感想だったに違いありません。

参加した患者一人一人に素晴らしい『体験』の機会の持たせてくれるE-BeCの講演会。関係者の皆様に、感謝です。

至らない報告で申し訳ないのですが、行きたくても行けなかった患者さんにとって参考になりますように。

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