輝き増した「第六回KSHS全国大会」
今回から魅力的な試みが始まりました。午後に分科会を設け、患者達が個別のドクターを選び、懇親会のように交われるのです。
私は病理医の黒住昌史ドクターのブースにうかがいました。
・がんの悪性度を示す「Ki67」と「グレード(がんの顔つき)」とはどう違うのか。
「Ki67」は14パーセント以上が悪性の目安とされてきたが、それはナンセンス。30パーセントを境に治療を定めるのが正解だ。
・病院によって検査結果のクロシロが違う場合があるが。
→ 「針正検」では細い針で吸引するので、がん組織に当たらない場合もあり悪性を見逃してしまう。「しこり」があるなら組織診(組織が沢山採れる吸引方法で、局所麻酔が必要)が好ましい。(私も組織診でクロが判明しました。この検査、そんなに痛くはないですよ、子猫に噛まれた程度です)
・以前はリンパ節転移の数としこりの大きさによって(効く効かないも分らないまま)抗がん剤治療をしたが、今ではサブタイプにより有効な治療が決まる。その点、乳がんは他のがん種と比べて恵まれている。
※サブタイプ=ホルモン療法(二種)有効か、Her2陽性で分子治療(ハーセプチン)が有効か、いずれも効かないトリプルネガティブ(要抗がん剤治療)か、の分類です。個別化治療と言われるのは、このように患者一人一人のがん組織を病理検査して、有効な治療方法を割り出すこと。
・Her2陽性の場合、ハーセプチンとタキサン系を合わせると6.7割の乳がんに有効。ハーセプチンだけでは2割の効き目に留まる。
・ホルモン療法有効、かつ、「Ki67」が高い場合は 抗がん剤治療を勧めたい。
・現在1000人の乳がん検診を実施した場合、50人が要精検、そのうち3人が悪性という割合。だが良性と診断されても次の年に必ず再検査を受けてほしい。
中にはハッとする質問もありました。
「(がん組織を)スライスしているうちに、消えてしまった。病理は出ないと言われたが」
→「そういう事も時にはあるんですよ。細かく見ようとするうちに袋しか残らなくなったということが。石灰化の方の病理はどうでしたか?」
このようなやりとりを聞いていると、普段は死角にあって人目につかない『病理医』というものの苦労が、透けて見えるようです。
勉強熱心な乳がん患者は、自分の治療方針に不安を覚え、しかし多忙な担当医と十分な面談の時間がとれずに悩んでいます。このジレンマを埋めるためにも、もっと病理医にこの世のスポットをあててほしいと感じました。
ある総合病院で「先生、ホルモン療法の副作用は……」と聞きかけた患者に、担当医がさっと渡したのは、何十項目もある副作用を羅列した紙でした。該当するのはたかが一つか二つかもしれないのに。その紙を人づてに見せられたときは、こんなふうに副作用を教えられたら、私とてきっと治療を拒否したくなる、と怖くなったものです。
・この十年で乳がんの発症は3倍になった。昨今、病理医が休む間もなくフル稼働しても、病理診断が出るのが遅いと苦情を言われる。
(この最後のコメントを聞いて、いよいよ心配になりました。病理医は検体をにらむのがお仕事で、一日中人と口をきかずに終わる日もあるそうです。その存在が表舞台に出ないことも、若手の志望者が減少している理由の一つでしょうか。けれど乳がんの治療成績が良好なのは、個別化治療ゆえなのです。個別化を担う上で欠かせない病理医の層が、相乗的に分厚くなってゆかなければ、私たちの病気も治りづらくなるでしょう)
このKSHS全国大会を通して一番強く感じたのは、このように患者と直接交わる場を病理医にもっとに提供し、公のマッチングを増やしてほしいということでした。
オープンカレッジや市民講座などのテーマに「がんを学ぶ」シリーズが取り上げられる現在です。病理医の存在と意義について理解が深まれば、情報の氾濫で乳がん患者が苦しむことも少なくなるのではないでしょうか。患者にとっては標準治療本を読んでも、ブログを拾い読みしても、今一つわからないことが多くあります。
先にご紹介したHP「乳がんプラザ」でも、質問される話題はほとんどが病理です。
黒住ドクターは患者の向こうにいる担当医の意志を推測し、患者の理解しやすい言葉に置き換え、解いてゆきます。平明に説明できるのは相当な経験値と謙虚さがあって可能なことで、一朝一夕に身に着く芸ではありません。お若い病理医候補生がそばにいて、このような場を貴重な実習の一つとして捉えてくれれば、とも思います。
「病理を見誤ると患者の運命を変えてしまう、緊張する」との黒住ドクターのお言葉が胸に残りました。
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後になって気づいたことですが、始まりの「ぶっちゃけトーク」では自家組織再建を得意とする医師達がお静かでした。
シリコンが保険適用になった今、短時間で社会復帰できるシリコン派が一般的になりつつあるのでしょうか。自家組織の柔らかく温かい再建乳房を、と望むのは、時間と環境に恵まれた患者さんの、あるいは放射線治療後シリコン挿入が難しくなった患者さんの「こだわり術」かもしれません。
けれど限りなく自然に近い自家組織再建は誰もが求めるものです。これからの最先端の技術に期待したいです。
また、この3月にブログでレポートしたE-BeC主催の特別セミナー(講師は佐武利彦ドクター、岩平佳子ドクター)が、来年以降も生き生きと続き、KSHS大会と併せてレギュラー参加する患者さんが、増えて欲しいものです。
ここに記したのは大会のごく一部に過ぎません。他のブログでも様々な視点から今回の大会の内容がレポートされています。アメーバブログ:あちょさんの「ついに私も乳がんサバイバー?」、ローズウッドさんの「上を向いて歩こう、生きる喜びに感謝して♪」がとても参考になりました。
KSHSのみなさん、代表のアヤヤさん、お疲れ様でした。今年もスタッフの皆さんにお会いできて大いに触発されましたよ。私もがんばります。本当にありがとうございました。ずっと続けて下さいね。
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