【第二回 E-BeC特別セミナーin東京・銀座】に参加して(H28.3/27)

 熱気に包まれた講演会でした。
 出色なのは、日本を代表する乳房再建医師にそれぞれ30分講演していただき、質疑応答に1時間20分かけたことだと思います。生煮えの質問をも寛容に受け止め、相手の意識を引き上げるように答えられる百戦錬磨の二人のドクター。質疑応答がそのまま、公開カウンセリングのようでした。段取りに無駄がなかったのは、E-BeCのスタッフの皆様が日頃、再建患者の現状をリサーチしているからでしょう。寄付金で運営し、中立であることの意義が伝わりました。

 以下、内容は前後しますがノートからの抜粋です。私的な雑感も多分に交じってますので、事実誤認があれば、目を通した方はどうぞ御指摘下さい。

『乳がんを美しく治す【自家組織による乳房再建】』
佐武利彦ドクターのお話しと質疑応答から
質問:穿通枝皮弁による再建後、仕事にはどのくらいで復帰できますか?

→ 筋肉は採らないものの、「筋膜」にはメスを入れざるを得ない。二週間から一ケ月は安静にしてほしい。(「筋膜」とは何でしょう?内臓器官、神経、血管等を体内にあるべき場所に備えるため、それらを大事に包んでいる白い膜のことです。私は穿通枝皮弁によるお腹からの再建後、10日で退院の予定でした。横浜から前橋まで自家用車を運転して帰るつもりだったのです。そして翌日から事務職に復帰するつもりでした。その計画を手術前にウラフネサロンで話すと、再建の先輩患者達が呆れました。「絶対、無理よ」と叱られました。運転などもってのほか。その上、翌日から働くなど絶対にいけません、と。
たとえ事務仕事でも侮れません。私のようにノウテンキな者がいますから、患者サイドから詳しく教えてくれる患者会は欠かせないのです。『穿通枝』経験者の実感では、外に出て仕事をするのは、せめて退院後1ケ月置いてから、とお勧めしたいところです。


質問:脂肪注入による再建手術後の修正について。
デコルテのくぼみや変形は脂肪注入により修正できる。が、左右のお胸の大きさが明らかに違っている場合、(ブラバを使わず)脂肪注入だけでボリュームを出せるのでしょうか?

→「不可能」とは言い切れない。しかし難しい施術なので医師を選ぶ必要がある。(ここで佐武ドクターの目が光ったように思います。それを可能に出来る医師はそう多くない、というニュアンスだったのでしょう)
※脂肪注入とはお手軽な響きですが、定着の良い脂肪を選りすぐるには、採取した脂肪を特殊な遠心分離機にかけ、血液やろう廃液、そして幹細胞を含んだ高濃度の脂肪を確保する必要があるのです。

質問:妊娠出産を望む女性の自家組織移植は?

→ 学会レポートでは腹部からの筋肉、脂肪を移植した患者でも、その後の妊娠出産は可能だった、という例がある。が、妊娠出産を望む患者の腹部にはさわらないのが大原則だ。
腹部以外を選択するなら、『穿通枝』では臀部の下方から脂肪を採ると、豊かな胸が出来る。しかし臀部の左右に段差ができると困るので、左右両方が採取することになる。その場合、手術は12時間かかる。小ぶりなお胸なら、太腿の脂肪がよい。
※穿通枝皮弁や筋皮弁移植後の48時間の絶対安静、持久戦を思い出すと、数回の日帰り時手術で温かく柔らいお胸を取り戻せるブラバ方式は、いつの日か、ぜひ標準治療になってほしい再建方式です。ただ、夜間に大きなプラスチックカップをお胸に装着して10時間、それを毎日1ケ月続けて、脂肪注入のスペースと毛細血管を増やしておく、というのですから、やはり覚悟とチャレンジ精神が必要でしょうね。
 ブラバの手術そのもの(脂肪採取と注入)に要すのは約二時間、その後二時間休み、日帰りで帰宅。半年後に二回目の注入をするとのこと。ブラバは漏斗胸(お胸が窪んでいる病気)の治療にも使われています。放射線をあてた後の皮膚に注入し、乳房の土台をならすために用いることもあるそうです。
 ブラバ手術ができる条件は、大胸筋、皮膚脂肪が残っていること。リスクはプラスチックのカップを長時間装着するため、皮膚がかぶれやすいことです。

 脂肪注入は満遍なく定着させるために、熟練した技術が必要です。
脂肪は大胸筋と皮下組織の中に入れるもの。顕微鏡レベルで見ると脂肪は黄色い数珠玉のように連なっています。それを満遍なく注入できるように、寒天を使い、医師たちは可視状態で注入練習をするのです。寒天で慣れたら、今度はマウス実習。バンザイさせられたマウスがお腹を出して並んでいるスライドを見るにつけ、マウスも楽じゃない、と胸が痛みました。

質問:術式によらず、美しい乳房を取り戻すための条件は?

 →医師を選ぶ目安:学会に出て勉強している医師、患者のための本を書いている医師(再建について書くだけの見識があり、症例を重ねてきているという意味で)。
患者の条件:体重コントロール、禁煙等、自己の管理できる人。

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 加えて患者に必要なのは精神面のコントロール。説明不足、言葉に棘がある等、医師の資質に疑問を感じた時、その場から一歩退いて、冷静に対処することも自己管理だと思うのです。一回こっきりで綺麗にできる再建手術など滅多にありません。段階を追って、傷が癒えるのを待ち、ゆっくり進むことが大事です。万一感染症を起こしたら、一度エキスパンダーを抜く、医師を慎重に選び、セカンドオピニオンを受ける。早く乳房を作るために焦ることは禁物で、『待つ』ことも大事です。
『待つ』ことは、ななわち最良の≪時≫を逃さずゲットする積極性だと思います。
 このあたり、心が大人になっているか、未成熟のままか、というシビアな問題に係ってきます。乳がんにかかって動転している患者さんにとって、「大人になってほしい」とはあまりに率直な表現でしょう。でも、闘病も再建も、それほど大変なことなのだと承知の上で、経験者達はサポーターとして尽力しています。
                      
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『これからの乳房再建 人工物を中心に』 
 岩平佳子ドクターのお話と質疑応答から
 
 2014年に日本国内で使用されたエキスパンダ―は4725個、シリコンは4209個。
 シリコンでもっとも再建しやすいサイズは240CC。アラガン社のシリコンは120CCが最少サイズ。しかしその患者に合うシリコンを探すコツは、何CCかではなく、形の問題だ。
 下垂した大きなバストにシリコンは不可。しかし小さすぎるバストも、また不可である。健側を豊胸しないとバランスとれない。豊胸にはシリコンが向いている。脂肪注入などで豊胸しても、血管に養われない脂肪は石灰化することもあり、がんと間違われやすい。 
 シリコンのタイプについては、「しずく型が良く、饅頭型が悪い」というのは誤解である。饅頭型が合う人もいる(要はざらついていてすべりにくい新素材を使っていることが大事なのでしょう)。
 挿入後、シリコンが上がらないようにバストバンドで固定させる病院があるが、手術がきちんと出来ていれば必要ないはずだ。シリコンの位置が上がってきて左右がアンバランスになり、修正を望む患者が来院する。その場合、エキスパンダ―から入れ直す必要がある。
 シリコンはマンモ検査には問題ない。今のシリコンは7キロの衝撃に耐える。しかしアフターフォローは必要だ。シリコン再建後は必ず年に一回は受診し、現状をドクターに見せること。シリコン寿命は新素材によって長くなったが、10年後にどうなっているかは、わからない。
シリコン再建者は、ストレッチポールなどを使って運動してほしい。クリニックには大胸筋を伸ばす運動用具が置いてある。ヨガ、ストレッチを日常的にやっている人には被膜拘縮が少ない。
被膜拘縮は乳房再建のシリコンだけではなく、ペースメーカーなど入れた時も起こる異物反応だ。被膜拘縮が起こってしまったら、手術して被膜を破るか、シリコンを抜いてエキスパンダー挿入からやり直す方法をとる。

 乳がん切除の際、乳輪乳頭を残すことにこだわることない。土台となる乳房本体の再建で、乳頭の位置がズレることも。左右対称に定めることは難しい。ちぐはぐになったのを矯正する方法は色々だが、結局、元の乳輪乳頭を切除して、新たに作る、というケースもある。
乳輪乳頭の作成は、刺青(タトー)だけでも、遠くから見れば乳頭があるように見せることは出来る。(スライドを見た会場から感嘆の声、見事な出来栄え。ブレストサージャーリークリニックの看護師さんの手仕事です)。

質問:ひとまずエキスパンダーを入れておくのは得策?
「乳がんを切除するとき、その病院では再建の医師がいないのに、エキスパンダーだけは入れておいたほうが良い、と勧められた。何かトラブルがあったら、と思うと不安だ」
 
 → 迷いがあったら無理にエキスパンダーを入れることはない。まず、乳がんの根治が大事だ。今後、さらに乳房再建が普及しても、治療が一段落してから再建手術に取り組もうとする二次再建の選択肢は、無くならない。二次再建にはそれなりに良い点がある。
(切除と同時にエキスパンダーを入れても、後の病理診断によっては放射線をかけることになる。いかなるタイミングで放射線をかけても、感染症のリスクは高まるのが現状のようです)。
放射線をあてることは、生卵をゆで卵にするようなもの。突っ張っている皮膚にクリームなどを根気よく塗り込み、つまめるようにしておくこと。それでも尚、放射線をあてた患者のうち、二割強が、感染症を起こす。お胸の状態を見て初めから無理だと判断した場合、自家組織の佐武クンを紹介している。

質問:生理食塩水を入れたエキスパンダーが、破れることはありえますか?
(乳がん切除した後の皮膚が薄く、500円玉サイズの穴があく例がある。しかし頑丈に出来ているはずエキスパンダーが破れ、中の生理食塩水が漏れて出してしまうケースがあった、その原因は何なのか)。

→ 旧式のエキスパンダーは水の注入の管が細く、接合部がスポッと抜けてしまうことが、よくあった。おそらく旧式のものを使っていたのだろう。
 感染症を起こしても、自分の体は人工物を受け付けないのだと決めつけることはない。早々に自家組織に切り替える必要もない。(この場合、患者が再建をいたずらに急がず、一度エキスパンダ―を抜いて症状が治まるのを待つのが良いのでしょう。自家組織手術に切り替えても、感染症が治まるとは限りません)。

※岩平ドクターのもとでは、体内に入るエキスパンダー、シリコンを触らせていただくことができます。シリコンを手に持って、自分の体に入る異物を確かめるのは大事なことだと思います。それを手に持った時、何となく受け入れがたい感じを覚え、自家組織に変えた患者さんもいます。

【患者から見たアメリカの乳房再建:ブロディ・愛子さんのお話しから

米国では年間10万人が乳房再建していて、24万人が豊胸手術を受けている。
アンジェリーナ・ジョリーが健康な乳房をがん予防のために切除して以来、同じような手術をする若い女性が増えた。
(聡明なブロディ―さんは良いとも悪いともコメントしませんでしたが、予防的切除のあと、美しく再建が出来るとは限りません。アンジーは特殊な立場にあって経済にも恵まれていますが、一般の女性が安価で引き受ける予防切除の医師にかかったら、と思うと心配にもなってきます)。

 乳房再建は欧米から日本に伝わったものだが、細部にこだわる再建ドクターの芸術家気質ゆえ、日本の技術はここまでになった。
 今となっては、欧米の医師は指先の器用な日本の医師には遠く及ばない。他国の形成外科医がその技術を習いに日本にやってくる時代です。

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 再建が順調に終われば、結果オーライです。しかしトラブルになった時、治療の方策をじっくり定め、患者に気持ちを添わせて最後まで面倒をみる「文武両道」の医師はそう多くはありません。
 このような講演会に足を運ぶことを強くお勧めしたいのは、最新のスライドをドクターの解説つき見られるからなのです。重い炎症、感染症でお胸の皮膚に穴があいてしまった症例がクローズアップされたとき、私は衝撃を受けました。紫色になったお胸の穴は深く、痛ましい写真でした。
 ご自分の辛い経験を写真に撮らせ、他の患者のために活用することを承諾した症例患者さん達の今後に、幸いがありますように。神様が守って下さいますように。
                  
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           魅力あふれる【体 感 会】

 質疑応答の間、パンフの番号順に呼ばれたグループが、別室の体感会へと抜け出します。ブースには様々な術式で再建したモデルさんが待機し、年齢、病歴、乳房再建の術式、担当ドクター名など、それぞれの履歴が頭上に貼ってありました。
 あるモデルさんの乳がん治療は、1/4カット+放射線でした。乳頭の位置は放射線後、残念なことにヨソを向いていたとのこと。術後二年でエキスパンダーを入れて皮膚を伸ばし、穿通枝皮弁移植。乳頭の位置は戻りましたが、お胸に段差があったため、その修正のためにさらにブラバによる脂肪注入。再建を始めてから完成するまでにじっくり時間をかけています。
 彼女の場合、温存と放射線、『穿通枝』、脂肪注入という最近の施術をすべて受けてきたわけです。素晴らしい仕上がりでした。

        ★ ★ ★ 締め括り 患者からの切実な声 ★ ★ ★

 この講演会を締めくくる患者からの声は忘れられないものでした。
未熟な医師は乳房再建に参入させないでほしい」。
 それは会場中の患者の代弁だったのです。
 両ドクターの表情は複雑でした。他の医師をこき下ろすことは、お二人ともなさいません。
 確かに、と岩平ドクターはうなずき、「現在は再建のハードルが低い。日本オンコプラスチックサージャリーの会員であること、三年に一回の講義(実習無し)を二時間聴講すれば、再建手術に参入できる(まともな技術が身につくとは思えません)。かといって、日本中の患者さんの再建を、限られたドクターだけでやりこなせるわけもない。
 技術を確かなものにするために、自分のところに修行に来ることは歓迎している。が、修行を希望する若い医師は、所属する病院組織の反対圧には逆らえない。そんなところに勉強に行くな、と頭を叩かれるらしい。

(白い巨塔とはそれほど籠城を強いるものなのですか。ひどい失敗再建をされた患者さんが、医師を訴えた、という事例をまだ聞いていません。失敗した患者さんには裁判に持ち込む余力が残っていないのでしょう。心を病んでしまうのです。でもいつか医療と法律と患者心理の三分野に詳しい有志が現れ、再建被害が広がらない強力なバリヤーを築いてくれる日が来るのを、私達は待っています)。

「自分たちは患者によって育てられてきた。今、同じように全国各地で患者によって育てられている医師たちがいる、それもまた理解してほしい」。
 最後の岩平ドクターの言葉に会場から拍手が起こりました。壇上の医師二人の努力、功績、謙遜をたたえる拍手でした。
 E-BeCの司会者は会場が心を一つにした空気をそのまま包むように、挨拶を締めくくりました。 
 会場を去る前、最後に手を挙げて下さった患者さんにお礼を申し上げました。皆が言い辛かったことを、はっきり口にして下さったことに、心から感謝しています。

以上、混濁した稚拙な記録ですが、再建をお考えの方の一助になりますように。質疑応答の部分では佐武ドクター、岩平ドクターのどちらがお答え下さったのか曖昧になってしまいました。ごめんなさい。
早くも三回目が待ち遠しいです。「シャロン前橋」参加の皆さんにも、ますますお勧めしたい催しです。
「乳房再建ネットワークシャロン前橋」HP http://charon.webcrow.jp

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