乳房再建の二大リスク 「喫煙・肥満」
ある日、某形成外科の中待合で待つあいだ、診察室でのやり取りが漏れ聞こえてきました。「痩せる気がないなら、僕はあなたの再建はしませんよ」。
佐武ドクターは患者に説明するときでも、コーヒー片手に散歩しながら話しているようなのどかな声色ですが、それは滅多に耳にしたことがない険しい響きでした。
コンマ何ミリかの血管を顕微鏡でつなぐ自家組織移植は、どろどろの脂肪にまみれた血管を採取するのが難関です。脂肪が沢山あれば移植に使えるというものでもなく、質の悪い脂肪(暴飲暴食による?)は、術中に捨てられてしまうそうです。
無事に乳房再建を終えたとしても、新しい人生には別の試練が待っています。私は再建本手術の後、ある法人の起ち上げに関わりましたが、覚悟していた通りの激務で 朝起きたら天井がぐるぐる回っていた、ということもありました。この三年余り、何とかやりこなして来られたのは、再建手術で体のゆがみを矯正してもらったからだと思います。
また、焦眉の急は特養に入所している母を、安全な場所に移すことでした。介護度5の母は自分では寝返りも打てません。なのに何故、顔に大怪我を負ったのでしょう。その顔にはベッド柵の跡がくっきり青く腫れ上がり、輪郭が象のように変形していました。職員が力任せに母の体を転がしている場面がありありと浮かびました。
それから様々な経緯がありました。新たな環境に移して三年、胃ろうをしていた母が今では口から食べるようになり、よく笑い、表情が豊かです。嬉しく、ありがたく、奇跡のようだと感じます。
今の私にとって最大の贅沢は、オフの日にプールで思い切り泳いで、仕事と介護を忘れることです。でもその後、大きな浴場の鏡で再建の跡を見るとき、この十年間、自分の身に起こった出来事がよみがえり、人目を気にせずお風呂に入れることも奇跡のように感じます。
糖尿病などの持病のために、再建手術を諦めなければならない人もいるのです。特にリスクのない患者でさえ、生まれつき血管が細すぎたり、術中に予期せぬ出来事が起こったり、その場に臨まなければわからないことが無数にあるでしょう。
お蕎麦に含まれるルチンが血行を良くすると聞き、再建手術の前は一生懸命お蕎麦を食べたものです。でもさほど効果があったとは思えません。それに引き替え、体重をコントロールすることと煙草を止めることは、二大リスクファクターを明らかにつぶすのです。
再建できる身体環境に恵まれた患者がなすべき、最小限の努力ではないでしょうか。
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