刺青で「乳房再建完了」、最良の一日


20159月の初旬、乳輪乳頭に刺青をさして私の乳房再建は完了しました。

Kクリニックにて、佐武利彦ドクターによる施術でした。鼠径部からとった乳輪、スターフラップによる乳頭の作成から、ちょうど半年。予定通りの運びです。待合室にいると、処置室からドクターの気さくな話し声が聞こえてきて、それだけで元気が湧いてくる。この信頼感のおかげで今日までやって来られたのかもしれません。
刺青の前にお胸を見せると、看護師さん達の間に「オオ」という感嘆の声があがりました。佐武ドクターの腕前に改めて驚いたのでしょう。でも良い事尽くめではありませんでした。私なりに努力もしているのです。陥没しないスターフラップ乳頭の秘密は、佐武ドクターの新方式に加え、一日置きくらいに保護材のスポンジをあてる点にもあります。毎日ブラで締め付けていると、埋もれてしまうかもしれません。スポンジがずれると、乳頭の端だけがつぶれていた、ということもあります。けれど、スポンジの穴を命中させて、テープで大事に押さえおくと、再び起き上がります。そこは流石ですね。


局所麻酔:普段着の上半身を開けて手術台に横たわり、乳頭の根元に注射を打ちます。自分の皮膚を丸めて作った乳頭です。痛みは感じません。薬液が浸透してゆくひんやりした感じだけがありました。

2,3種類のチューブの具財を混ぜ合わせ、健側の色を見ながら刺してゆきます。懐かしい図画の時間の絵の具の匂いが漂いました。

大きなボールペンのような電動器具の先に12本くらい微細な針があり、それを振動させて乳頭に凹凸をつけ、色の浸透させてゆくのですが、この振動は歯医者さんで歯間掃除をしてもらっているのに似ています。次はやや色具合を変えて乳輪のボカシです。

看護師さんが親切にも、耳元にスマホを置いてバッハの無伴奏を聞かせてくれましたが、『ブーン』の電動音でかき消され、台無しでした。「音楽より刺青目的で来たんでしょ」と佐武ドクター。

途中、二度ほど起き上り、全体を確認してもらいました。刺し終えた乳輪乳頭はラップで包み、上からガーゼを貼られ、3日間は外せません。5日めには落ち着いているから、そっと水で流して、とのこと。一週間は用心です。

処置室に入ってから出るまで、40分くらいでした。

これは自由診療です。

   初診料 3,000

   施術料 60,000

針料金 10,000

合計 73,000

前にも発信しましたが、乳輪乳頭作りの時、通常のがん保険とは別に、手術給付金10万が入っていたので、それを今回の施術費用に充てました。穿通枝皮弁による再建手術から始まり、全て社会保険とがん保険で賄えたので、交通費も含めて持ち出しは必要ありませんでした。

万一、半年以内に色落ちした場合、1,000円で刺し直していただけるそうです。それ以降は針料金のみ10,000円かかります。でも何となく自分にはやり直しは必要無いと感じました。多少色落ちしても、鼠頸部からとった皮膚の地の色があるので、全く消えてしまうことはないのです。

とうとうやり終えた――。 達成感と幸福の波が押し寄せてきました。

2006年に乳がん発症、全摘、抗がん剤、ホルモン治療。2009年にSOGのセミナーで再建の詳細を知り、佐武ドクターを外来に尋ね、1年半待って2011年に腹部の穿通枝皮弁による乳房再建。20152月に乳輪乳頭を作り、この9月の刺青で完成しました。

乳房を失ってから9年が経っていました。時間がかかった理由は、介護、転職、患者ボランティアなど、日々のお務めのためでした。自分の場合、急ぐよりも十分に納得してコマを進めてきたのが良かったと思います。

全ての始まりとなったのはSOGのセミナーです。そこでお会いしたYさんに、完成までずっと相談に乗っていただいていました。

 折しも「完成」の夜、Yさんがバックアップしているロックバンドのライブが私の地元で開かれていたのです。

横浜から帰り少し眠ってから、ライブの会場となっている高崎のカレーショップ「印度屋」さんに伺ったのですが、扉を開くなり、ビートルズ円熟期のメロディとファンの歓喜のオーラに呑み込まれました。ドラムもベースも巧い、そしてリッキーこと廣田龍人さんのソフトな声質と、ピアノの音色ほどに繊細な響きのアコースティックギター、ああ、この人の声でいつかジョン・レノンの「イマジン」を聞きたい。

後半は「抱きしめたい」や「シーラブズユー」のビートに誘われ、踊りの輪の中に入って一緒に歌っていました。今度こちらでライブを開くのは2016年の2月とか。もう、すっかり常連になりそうです。

お別れの時、「このライブが私の乳房再建の打ち上げになった」とYさんに抱きついて、涙ぐんでいました。

一生忘れることのできない、素晴らしい一日でした。

* この日、素敵な出来事がもう一つ。
施術の前に、酒井成美ドクターによる広背筋の再建患者さんとティータイムをご一緒しました。翌日、とても素敵なメールをいただき、再建患者に通じる親密さを感じたことです。近々、このブログでご報告したいと思います。

「乳房再建ネットワークシャロンm」HP http://charon.webcrow.jp










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