第9回のご報告 自家組織同時再建3名

  第9回街角サロンには、都立駒込病院、寺尾保信ドクターの『筋皮弁同時再建者』Aさん、横浜市大センター、佐武利彦ドクターの『穿通枝同時再建者』Tさん、Sさんが応援参加をしてくれました。

お腹の筋肉を持ってくる筋皮弁は、ドナー部(お腹)の痛みが酷い、という先入観を多くの人が持っています。80年代にその経験をした三島英子さんは、 「ギロチンが腹部に落ちてきた」と表現しました。しかし筋肉を使うにしても術式は体に優しいものに進歩しています。お腹のドナーを血管ごと切り離し、お胸の血管と吻合して栄養を行き渡らせ定着させる方式は、『穿通枝』と同じなのですが、寺尾ドクターの方式は血流を安定させるために少し筋肉を添えて移植します。ギロチン云々はすでに当てはまりません。

参加者たちがAさんの体験談に驚いたのは、術後まもなく感染症を起こした患部、出血なまなましい傷跡写真をお持ちいただいたからでした。転んでもただでは起きないとはこういう事を言うのでしょう。むしろ写真をとって貴重な記録を残そうするAさんの冷静さが、免疫力アップ=自然治癒力につながったのかもしれません。

術後の痛みや不安の中でこうした不測の事態が起こり、恐ろしくなかったのかと尋ねると、Aさんは少し首をかしげ、その時の寺尾ドクターとの淡々としたやりとりを再現しました。ベテランならではのあっけらかんとした反応だったようです。

寺尾ドクターは、千葉敦子さん(乳がん闘病カミングアウトの先駆け)のお胸を再建した故坂東正士ドクターのお弟子さんです。都立駒込病院は乳房再建には30年余りの実績があるのです。

ただしAさんの修正手術は、数回に渡りました。参加者たちは「再建作品お披露目」で、綺麗な仕上がりを見せてもらい、感染症の写真とのギャップに目を瞠りました。
  再建したといわれなければ、そうとは気づかないほど自然なのは、TさんもSさんも同様でした。
 
 自家組織の再建では硬膜外麻酔のおかげで痛みは感じないと言われていますが、患者が口にするのは絶対安静の48時間の苦痛です。「しかし必ず終わりが来るのだから、そしてその後、乳房を再建した幸福感は長く続くのだから」というTさんの発言に重みがありました。Tさんは佐武ドクター、約600症例目の再建患者です。絶対安静とはいっても、患側の上腕部さえ動かさなければ良いのです。健側の肘から先や腰や足は、寝たままですが多少の動きは自由です。

自家組織の患者サロンでは48時間をどう過ごすかが話題になります。おおらかな明るい気質のTさんは絶対安静の間、良く眠り、看護師さんが血流を調べてきたことさえ気づかず、熟睡していたとのこと。「ただ術後すぐは水を飲むことを許されず、喉がカラカラになった。普通に水を飲むという行為がこんなにもありがたいことだったのか」。私もまったく同感でした。

 乳がん発症時に名医と出会ったのは、Tさんにとって並はずれた幸運でした。その運を呼び込んだのはTさんのアンテナです。再建経験者の一言が、迷いの中にコトっと落ちてきて、決断を促したのでした。 

 Sさんは若年性の乳がんです。ホルモン療法による副作用であるホットフラッシュ、子宮の体がん発症の恐れ、その他もろもろを心配しながら、フルタイムでお仕事をこなしています。検査結果に一喜一憂する重荷があるのに、何故こんなに素直な気立てのままいられるのだろう、と不思議にさえ感じました。

Tさんは若い頃から、万一のことがあっても一人で生計を立てられるよう、自分を育ててきたと言います。 
Aさんは家族のつくった桁違外れの借金を、自分の才覚と寝ずの働きで返済した過去があります。

人生の分岐点に立って困った時には、こうした生き方キャリアの分厚い人たちのそばに、自分の身を置きましょう。

自分に弱さを覚える時、一緒に泣いてくれる仲間がいることは深い慰めになりますが、泣くことにも飽きが来ます。「心のおもむくままに」(スザンナ・タマーロ著)の一文を、乳がん発症の頃、私は思い出しました。『「人を成長させるのは苦悩だけだが」と彼は言った。「しかし苦しみからは早く抜け出した方が良い。そこへ逃げ込んだり自分を憐れんだりしていると、自分が見えなくなってしまう」』。

シャロンmは東京、神奈川の名医を勧めるサロンだと思われているようですが、そんなことはありません。ただ、県内の形成外科でお胸を作った人が、その完成品をひっさげてシャロンmに来てくれたことは、滅多にないのです。途中経過の披露はあったのですが、その後どうなったのか、わからないのです。

以前、再建の先進県からゲストをお招きしたとき、「情報不足の中で、皆が呻いている」とおっしゃっていました。ナマの再建体験を語る人が少ないからです。同じドクターにかかっても、こういう出来映えだ、そういう修正だ、いや、自分のケースはああだった、という、かしましいお喋りの場面が何としても必要なのです。

この日のサロンにご登壇いただいた三人とは、今後も長いお付き合いをお願いしたいものです。長くなりますのでひとまず締めくくりますが、このブログで再び詳細に触れることになると思います。(H27年 6月17日記)

      乳房再建ネットワークシャロン前橋HP  http://charon.webcrow.jp

 

 

 

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