腹直筋で再建しても、出産可能???


『腹直筋で再建しても、その後の妊娠出産は大丈夫だよ』と,その医師は患者さんに告げたそうです。しかしどの資料を調べても、「不可」とあります。

 本当に無事に出産できた例が、米国には弱冠あるようですが、骨格や体の中身までが全く違う日本人に当てはまるのでしょうか。

 腹筋どころか、お腹の脂肪のみ(穿通枝皮弁)を移植したとしても、某ベテランの再建医師は決してその後の出産を勧めません。
 問題は医師の腕の良し悪しではないのです。

 筋肉や脂肪を剥がしたあとの、皮一枚で覆われているかのような薄いお腹で、妊娠9カ月10カ月の尋常ならぬコンディションを保てるのでしょうか。帝王切開するとしても、それ以前に胎児は安全に育つのでしょうか

  シリコンが保険適用になり再建は普及しましたが、異物挿入が不可能な人、風邪や過労で感染症を起こす人は必ずいます。
 自家組織で再建するしかない患者さんもいる、ということなのです。そんな患者さんの中で一番辛いのは、若くして発症し、この先、妊娠出産を望んでいる人なのです。

 『穿通枝皮弁』の出来る形成医が、随分増えてきました。しかしほとんどの医師は腹部から採る術式です。

 では妊娠出産の可能性を充分残して、自家組織で再建するには?
 広背筋皮弁(背中の筋肉を移植する)ができる医師は沢山います。でも大きなお胸を創るには組織が足りません。
 三田病院の酒井成身医師が腰までの組織を使う『拡大広背筋皮弁』という技を編み出し、豊かなお胸を創れるようになった、と聞いています。

 また、お腹に触らず、臀部、大腿部など10カ所余りの身体の部分から脂肪をとり、「穿通枝皮弁」による、脂肪だけの再建をできる医師もいます。しかしそれを出来るのは私が知る限り、横浜の佐武利彦医師だけです。
 佐武医師の手術の順番は今や三年待ちと言われていて、赤ちゃんを産めるタイムリミットが迫っている女性にとっては深刻な現状です。

  
 冒頭の医師が、腹筋をとっても出産できる、と断言した理由は何でしょう。
 腹筋(腹直筋)を採る方法にも旧式と新式があります。新式の手術ではお腹の筋肉を血管ごと切り離し、受け入れるお胸の血管と吻合します。切り離さずに体内を転がして移植するという旧式のやり方と比べれば、後遺症は少なくなりました。その点を含んでいたのでしょうか。

 苦しみ迷う患者さんは医師の一言にすがります。
 何より恐ろしいことは、筋肉で再建したあと、患者さんが妊娠し、その後どのような運命を辿るか、なのです。

 「大丈夫だよ」の医師の言うとおり、本当に腹筋を採った再建ののち、妊娠して無事に元気な赤ちゃん出産し、子育てしている女性がいたら、名乗りをあげていただけませんか。
 信頼できるデータがほしいのです。

 『乳房再建はこころの再建』(ネスコ)という本がありました。再建の草分け的な坂東正士医師の著書です。15年前に書かれたもので、医療本としては寿命が尽きているかもしれません。しかしそこには患者の心をも再建しようとする良心が横溢しています。どのページを開いても、その時代に全力を尽くした医師の誠意が伝わってきます。

 
 患者側としては、乳房再建を軽く見るべきではないと思います。綺麗に仕上がるだけでも,奇跡のような、難しい手術だと思っていただきたいのです。どの術式であれ、簡単なものではありません。時間はかかるし、体にも重い負担があります。
 一方、若年性乳がんがこれだけ増えている今、再建の可否を、産婦人科にまでつなげていただくことを、医師には切に願いたいのです。

 
      乳房再建ネットワークシャロン前橋HP  http://charon.webcrow.jp

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